忍び寄る高齢者のフレイル予防は低栄養予防から
フレイルとは、健康な状態と要介護状態の間の状態で、加齢や疾病に伴って心身の活力が低下してしまっている状態のことを指します。
地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センターは、2012年に行われた全国高齢者パネル調査において、65歳以上の高齢者2,206名のデータを解析した結果、フレイルは8.7%、プレフレイルは40.8%、健常は50.5%だったことを発表しました(令和2年9月3日)。また、女性や高齢者、社会経済状態が低い方、健康状態が悪い方ほど、フレイル割合は高い傾向があることを報告しています。
フレイルが進むと、身体的な衰えばかりでなく、うつ状態などの精神心理的な衰え、孤立状態などの社会性の衰えを引き起こし、要介護状態になる危険性が高まります。
しかし、その一方で、適切な介入や支援を受けることができれば健康に戻ることができる状態でもあります。フレイルを予防するには、早い段階で気づくことが大変重要です。『改訂日本版フレイル基準(J-CHS基準)』を参考にセルフチェックをして、「フレイルかな?」と思ったら早期にフレイル対策に取り組みましょう。
セルフチェックをしてみよう
表:改訂日本版フレイル基準(J-CHS基準)1)(Satake S and Arai H. Geriatr Gerontol Int. 2020; 20(10): 992-993)
項目 | 評価基準 |
体重減少 | 6か月で、2㎏以上の(意図しない)体重減少 (基本チェックリスト#11) |
筋力低下 | 握力:男性<28㎏、女性<18㎏ |
疲労感 | (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする (基本チェックリスト#25) |
歩行速度 | 通常歩行速度<1.0m/秒 |
身体活動 | ①軽い運動・体操をしていますか? ②定期的な運動・スポーツをしていますか? 上記の2つのいずれも「週に1回もしていない」と回答 |
※5つの評価基準のうち、3項目以上に該当するものをフレイル(Frail)、1項目または2項目に該当するものをプレフレイル(Prefrail)、いずれも該当しないものを健常(Robust)とする。
フレイルの3つの要因と3つの予防
フレイルは、低栄養に伴う筋力低下などの身体的要因、認知症やうつなど精神的・心理的要因、孤立や孤食などによる社会的要因の3つの要因があります。フレイルの進行を予防するためには、心身の機能が低下しないように食事や運動、積極的に人とかかわるなどを心掛けましょう。
フレイルの悪循環『フレイルサイクル』を断ち切ろう!
加齢や疾病により、食事が十分取れなくなると低栄養状態になります。特にたんぱく質が不足すると、筋肉量が減少し筋力が低下することによって、歩行速度が緩やかになったり、転倒のリスクが高まるなど、身体機能が低下し活動量が減少します。
活動量が減少することで、エネルギー消費量が減るため、ますます食欲が低下し食事量が増えず、低栄養状態がさらに悪化しサルコペニアが進行します。この悪循環がフレイルサイクルです。フレイルサイクルの大元の一つが食事量の減少による低栄養です。
高齢者の低栄養
厚生労働省「令和元年度 国民健康・栄養調査」の結果によると、65歳以上の高齢者の低栄養傾向(BMI20以下)の割合は、男性12.4%、女性20.7%で、この10年間で男女とも有意な増減はみられていません。ただ、年齢階級別にみると、男女とも85歳以上でその割合が高く、男性17.2%、女性27.9%となっています。
低栄養状態が続くと、感染症リスクが高くなるばかりでなく、筋力の低下による転倒骨折からの寝たきり状態になるなど、要介護状態のリスクも高まります。
低栄養の目安
BMI | 20㎏/㎡以下 |
体重 |
6か月間で2~3kg以上の減少 または 1~6か月間の体重減少率3%以上 |
血清アルブミン値 |
3.8g/dl以下 (3.5g/dl未満は要注意) |
参考 低栄養状態の指標について(厚生労働省)より
低栄養の原因
加齢や疾病に伴う「消化機能や咀嚼嚥下機能の低下」などの身体機能的側面、独居等の社会的側面、ストレス等の心理・精神的側面などによる食欲の低下から食事量が減少し摂取栄養素の不足、栄養の偏りが起こります。更に、栄養が偏ることで、免疫力も下がり体力が低下、活動量も減少するため、食欲も少なくなり、ますます低栄養状態に陥ります。(フレイルサイクル)
低栄養による影響
栄養不足による免疫力の低下から、感染症の発症リスクが高まり、傷の治癒も遅れてしまいます。また、筋肉量・筋力の減少による転倒・骨折からの寝たきり状態のリスクも高まります。
低栄養の予防
・一日3食しっかり食べる(一度に量が食べられない場合は、間食で必要な栄養素を補う)
・一日2回以上、主食・主菜・副菜のそろったバランスの良い食事を取る(一汁三菜を目安に)
・必要に応じて必要な栄養補助食品を活用(かかりつけ医師、かかりつけ薬剤師と相談を)
・食事を楽しく美味しく食べる(嗜好や咀嚼嚥下状態にあった食事、孤食を避けるなど)
・口腔ケアで口内を清潔に保つ(口腔内の機能維持、感染症の予防につながる)
厚生労働省のパンフレットの活用もおすすめ
フレイルを予防するためには、低栄養を予防することがとても重要です。
厚生労働省のパンフレット『食べて元気にフレイル予防』にもあるように、多様な食品を組み合わせて食べることで、必要な栄養素をまんべんなく摂取することができます。
しかし、高齢者では、身体的機能の低下や心理・精神的要因などから、日々の買い物や調理が困難な場合があったり、咀嚼や飲み込む力が低下している方では、やわらか食やペースト食など、その方にあった形態にする必要が生じることにより、多様な食品を使用した栄養価の整った食事が摂りにくくなる傾向にあります。
また、つい簡単に済ませられるインスタント食品だけになったり、ごはんと汁物だけのお食事にしてしまったりすると、栄養の偏りから、更にフレイルが進行してしまう悪循環(フレイルサイクル)に陥る可能性が高くなります。
同パンフレットでは、「料理が大変な場合は、バランスの整った配食弁当の活用等」についてもわかりやすく記されています。配食弁当や調理済み食材提供サービスを利用するのも一つの方法です。
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