介護施設の誤嚥の正しい対応方法とは?原因と対策や実際の事例も紹介
2024年9月3日 更新
食べ物が誤って気管に入ることを「誤嚥(ごえん)」といいます。食べ物の大きさや形状によっては、気管が塞がれて呼吸ができなくなり窒息する場合も。とくに介護施設では起こりやすい事故であるため、食事を提供する際は細心の注意を払わなければなりません。また、万が一の事故に備えて、迅速かつ適切な対応をとるための準備をしておくことも重要です。
本記事では、誤嚥を見分ける方法や正しい対処法、誤嚥の原因と対策、具体的な事例、誤嚥しやすい食事内容を解説します。誤嚥の防止策や発生したときに素早く対応できる知識を身につけたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
介護施設(老人ホーム)を含む高齢者の誤嚥による死亡事故は多い
厚生労働省の「人口動態調査」をもとに消費者庁が2022年12月に作成した資料によると、2021年に発生した高齢者における不慮の事故のうち、誤嚥による死亡者数は約3,884人でした。死亡者数は同一平面上での転倒が最も多い8,085人で、次いで浴槽内での溺死・溺水が5,097人となっており、誤嚥は3番目に多い死因であることが分かります。
高齢者の中でも、食べ物を飲み込む力や、食べても安全かを判断する力が低下している方は誤嚥のリスクがあるため注意が必要です。統計的に、誤嚥は高齢者の介護度や飲み込むものが固形かどうかにかかわらず起こり得ます。そのため介護施設では、どのような食事内容であっても「自分で食事をとれる人だから」と安心することなく、誰にでも誤嚥が起こるリスクがあることを認識しておきましょう。
※出典:消費者庁「高齢者の不慮の事故」
対応方法の前に知っておきたい介護施設での誤嚥を見分ける方法
介護施設で高齢者が誤嚥をした際の対処法を知る前に、誤嚥かどうかを見分ける方法を理解しておくことが大切です。誤嚥は気管に誤って食べ物や水分が入るため、以下のような症状が見られます。
- むせ込んでいる
- 喉を掴むしぐさをしている
- 声がガラガラになっている
- 何もしゃべらず、黙り込んでいる
- 顔色が極端に悪く見える
- ぐったりした状態で意識を失っている
- 胸を手で叩き、苦しそうなしぐさをしている
上記の症状やしぐさが見られる場合は、誤嚥の可能性が高いです。
「不完全閉塞」と「完全閉塞」の見分け方
誤嚥で食べ物が詰まった状態には、大きく分けて「不完全閉塞」と「完全閉塞」の2種類があります。その後の対処法が変わるため、どちらに該当するのかを見分けることが重要です。
不完全閉塞は、気道の一部にすきまがあり、完全に塞がっていない状態です。不完全閉塞は呼吸がしにくくなる、咳が出やすくなる、声が枯れるなどの特徴があります。
一方の完全閉塞は気道が食べ物で完全に塞がっている状態のこと。呼吸ができず体内は酸欠状態になるため、くちびるが青紫になるなどチアノーゼが確認できます。また、本来気道から抜ける空気が行き場をなくし、胸とお腹が交互に膨らんだりへこんだりするのも特徴です。
介護施設で誤嚥が起きたときの正しい対応・対処の方法
介護施設で誤嚥が発生した場合の正しい対応・対処の方法は以下の通りです。
- 各職員が連携して素早い対応を行う
- 継続的に咳を出してもらう
- 口腔内のものを指交差法・指拭法で取り出す
- 喉に詰まったものを背部叩打法で出す
- 効果が無ければ腹部突き上げ法を試す
- 呼吸器で吸引する
- 心肺停止には心肺蘇生法を行う
気道の一部にすきまがある「不完全閉鎖」の場合は、継続的に咳を出してもらうことから始めます。一方、呼吸ができない「完全閉鎖」の場合は、迅速な対応が求められるため、「背部叩打法」や「腹部突き上げ法」、「呼吸器での吸引」で対処しましょう。
各職員が連携して素早い対応を行う
誤嚥した高齢者を発見した場合は、一人で対応せずに周囲の職員を集めて迅速に対応することが重要です。それぞれの職員が役割を認識して対応すれば、重症化するリスクを軽減できます。介護施設で誤嚥が発生した際の役割は、大きく分けて以下の4つです。
- 救急車を呼ぶ
- 応急処置を行う
- AEDを用意する
- 関係者へ連絡する
誤嚥が起きてから現場で役割分担を決めるのでは素早い対応がとれないため、事前に誰がどの役割を担当するのか明確にしておきましょう。
継続的に咳を出してもらう
誤嚥は窒息による死亡リスクが高く、一刻を争うため継続的に咳を出すように促すことが重要です。咳は、気管に入った異物を吐き出すための防御反射。続けて咳を出すことで、気管に詰まった食べ物が口から吐き出され、誤嚥が解消される場合があります。
咳を促す際はいきなり背中を強く叩くのではなく、食べ物が気管から出やすいように前屈姿勢をとらせてから背中をさすってあげましょう。背中をさするときのポイントは下から上に向かってさすることです。なお、完全閉鎖をしていて咳が出せない、呼吸ができない場合は、後に紹介する「背部叩打法」や「腹部突き上げ法」、「呼吸器での吸引」で迅速に対処しましょう。
口腔内のものを指交差法・指拭法で取り出す
誤嚥の際に、口の中に食べ物が残っている場合は、「指交差法」と「指拭法」で取り出します。
指交差法は親指と人差し指をクロスさせて口を開かせるための方法です。上の歯に親指、下の歯に人差し指を当ててひねるように口を開かせましょう。
指拭法は清潔なガーゼやハンカチを指に巻き付けて食べ物を口から取り出す方法。ポイントは、横から指を入れて食べ物を押し込まないように注意することです。
喉に詰まったものを背部叩打法で出す
背部叩打法は背中を叩き、喉に詰まった異物を吐き出させる方法です。完全閉鎖の場合は、最初からこちらの方法で対処しましょう。具体的な手順は次のとおりです。
- 片手で胸骨を支えて前傾姿勢を保つ
- 手のひらの付け根で、左右の肩甲骨の間を強く叩く
- 数回叩いた後に様子を確認する
数回叩いて誤嚥が解消されない場合は、2と3を繰り返し行いましょう。背部叩打法を行っている最中に高齢者の意識がなくなった場合は、後述する心肺蘇生法に切り替えてください。
効果が無ければ腹部突き上げ法を試す
背部叩打法で誤嚥が解消しない場合は、腹部を圧迫して強制的に異物を吐き出させる腹部突き上げ法を試します。手順は以下の通りです。
- 高齢者を安全な場所に座らせ、背後からお腹あたりに手を回す
- 片手でへその位置を確認する
- 逆の手で握りこぶしを作り、親指側をへそより上または、みぞおちより下の位置に当てる
- へその位置を確認した手で握りこぶしを包み込むように握る
- 両手を手前の上に向かって圧迫するように突き上げる
腹部突き上げ法は、妊婦や乳児には使用できません。また、腹部突き上げ法の実施後は内臓を傷めるおそれがあるため、現場に到着した救急隊に必ず伝えましょう。
呼吸器で吸引する
吸引器は気管に詰まった異物を取り除くのに有効な手段です。介護施設に吸引器を常備している場合は使用しましょう。法律上、吸引器の使用は医療行為とみなされます。
しかし、2012年4月に改正された社会福祉士及び介護福祉法によって、救命目的での使用が認められるようになりました。誤嚥をはじめ、放置すれば死亡するリスクが高い状態になった場合は、痰吸引の研修を受けた介護職員が対応を行います。
※出典:厚生労働省「介護職員等による痰吸引等実施のための制度について」
心肺停止には心肺蘇生法を行う
心肺蘇生法は、心臓マッサージと人工呼吸を繰り返し行う方法です。例えば、胸部と腹部に動きが見られない、しゃくりあげるように不規則な呼吸をしているなど、心肺停止のときに有効な方法です。
心臓マッサージは、胸の真ん中を目安に両手を当て約5cm沈む強さで、1分間に100~120回のペースで行います。連続して行えば効果が期待できるため、できるだけ間を開けずに繰り返しましょう。可能であれば、人工呼吸も合わせて実施します。具体的な手順は次のとおりです。
- 高齢者のあごを持ち上げて気道を確保する
- 心臓マッサージを30回行う
- すぐ後に1回1秒間を目安に酸素を口から吹き込む人工呼吸を2回行う
介護施設にAEDを常備している場合は、心肺蘇生法と合わせて利用しましょう。
介護施設で誤嚥が起きる原因の例と防ぐ方法
介護施設でなぜ誤嚥が起こるのか、原因と対策を考えておく必要があります。どのような原因があり、どのように防ぐのかを解説します。
誤嚥しやすい状態の食事を提供した
誤嚥を招きやすい食材を組み合わせた食事の提供が、誤嚥の引き金になる場合があります。例えば、ゼリーのような飲み込みやすい食材と、白玉団子のように喉に詰まりやすい食材を組み合わせたものは誤嚥のリスクが高まります。
誤嚥のリスクが低い食事にするには、誤嚥しやすい食材を使用しない、飲み込みにくい食材は柔らかさや大きさを調整する、水分にとろみをつけるなどの対策が有効です。
食べ物が口腔内に残ったまま移動した
口の中に食べ物を入れたまま体を動かすと、誤って気管に入るおそれがあります。食事中の高齢者から目を離すと、口に食べ物を入れたまま移動する人も少なくありません。
食べ物を飲み込んで、すぐに移動することは誤嚥のリスクが高まります。この場合、職員は入居者が食べ物を飲み込んだのを確認してから移動を促しましょう。また、飲み込むまでは移動しないように、日頃から声をかけることも大切です。
食事介助はしていたが水分が足りなかった
パンのように水分が少なく、パサパサとした食材は飲み込みにくいため誤嚥の原因になる場合があります。また、食事中に介護職員が見守りをしていても、食べるペースが早かったり一口が大きかったりする高齢者は誤嚥につながるかもしれません。
水分が少ない食材を食べさせる場合は、水やお茶を一緒に取りながら食べることを促しましょう。一口の量が多い場合は、一口大に刻んでから提供するのも有効な方法です。食べるペースが早い高齢者には、一度に全ての食事を渡すのではなく、少量ずつ提供することをおすすめします。
面会に来た親族が持ち込んだ食事で誤嚥した
面会に来る親族が手土産に持ってきた食材で誤嚥するケースも珍しくありません。高齢者が誤嚥しやすい状態にあることを親族が把握していない場合、「好物だから」と悪気がなく、誤嚥しやすい食材を提供してしまう可能性があります。
対策として、誤嚥のリスクや誤嚥しにくい食材について親族に伝えておきましょう。また、介護施設の対応として、差し入れを持ち込む際に、入所者が食べても安全かを職員が確認するのも有効な手段です。他にも、面会時は長時間目を離さないように気にかけておくことも誤嚥の対策になります。
他の入所者の普通食を食べてしまった
介護施設では入所者の状態に合わせた食事を提供します。しかし、食べやすいように刻んだ食事を提供された人が、他の人の普通食を食べて誤嚥する場合も少なくありません。
他の入所者の普通食を食べてしまう理由として、普通食を食べている人が食事を譲ったり、普通食を食べたい一心で他の人の食事に手を出したりすることが挙げられます。この場合、食事中の見守りを強化する、配膳の順番を工夫する、食形態ごとに座席を分けるなどの対策が有効です。
訴訟に発展した介護施設で起こった誤嚥の事例
介護施設で誤嚥が発生し、訴訟にまで発展してしまった事例を紹介します。
白玉団子を誤嚥した事例
一口大の白玉団子が誤嚥を招き、植物人間状態を引き起こしてしまった住宅型有料老人ホームの事例です。被害者は認知症のある80代の利用者で、直径2~3㎝の白玉団子を喉に詰まらせてしまいました。誤嚥が起きた際の状況は、利用者の手が届く範囲に白玉団子を置き、その後も利用者の行動を確認していなかったようです。
施設側の言い分の一つに、白玉団子には豆腐が入っていたと主張しましたが、粘着性や弾力性があったため認められませんでした。裁判所は、施設側が利用者の手の届く範囲に白玉団子を置いたこと、利用者の食事状況を見守る義務を怠ったとして、被害者側の賠償請求を認めています。
誤嚥が原因で低酸素性脳症を引き起こした事例
誤嚥のリスクが高い入所者が食事介助中に誤嚥を起こしたことで、低酸素性脳症を発症したという特別養護老人ホームの事例です。被害者は、誤嚥性肺炎を起こしやすいと医師から診断を受けており、失語症によって言葉のやり取りに時間がかかる傾向がある方でした。
施設側は介護現場では介護福祉士や看護師などの資格を持たない職員もいることを挙げ、注意義務違反はないと主張しましたが裁判所は認めませんでした。裁判所は、誤嚥しやすい入所者だと認識を持ちながらも、食事中にしゃっくりが出たのを無視して食事介助を続けたとして、施設側に2,000万円の賠償責任を認めています。
ロールパンを誤嚥した事例
ロールパンを喉に詰まらせ、誤嚥による死亡事故を起こした特別養護老人ホームの事例です。被害者は80代男性でパーキンソン病を患っていました。亡くなる一か月前にも朝食で誤嚥を起こしていたにも関わらず、施設側では介護記録に誤嚥した旨を記載しておらず、職員間で情報共有や原因分析もおこなっていませんでした。
裁判所は、誤嚥の危険性を認識していたにもかかわらず入所者が亡くなるのを施設が防げなかったとして、施設側に約2,500万円の賠償金の支払いを命じました。
介護施設が認識しておくべき誤嚥しやすい食事・誤嚥しにくい食事
高齢者が誤嚥するのを防ぐためにも、介護施設では誤嚥しやすい食事と、誤嚥しにくい食事を認識することが重要です。ここからは、誤嚥しやすい食事・誤嚥しにくい食事の具体例と食事提供の際に気をつけたい注意点を解説します。
誤嚥しやすい介護施設の食事
以下は、誤嚥しやすい食材の一例です。
- 味噌汁・お茶などサラサラとして、とろみがない液体
- 肉・こんにゃく・タケノコなど噛みづらく、口の中でまとまりにくいもの
- パン・イモ類・クッキーなど水分がなく、パサパサしているもの
- のり・わかめ・最中の皮など口の中に貼り付きやすく、ペラペラしているもの
- もち・団子・生麩など粘り気があり、ベタベタするもの
- 酢の物・柑橘類・オレンジジュースなど酸味があり、むせやすいもの
- ピーナッツ・大豆など噛みにくく、喉に詰まりやすいもの
提供する食事に誤嚥しやすい食材が含まれている場合は少量ずつ口に入れるようにして、飲み込んだのを確認してから次の一口を提供するようにしましょう。
誤嚥しにくい介護施設の食事
介護施設で誤嚥しにくい食事を提供するためには、歯茎で潰せる柔らかさにする、水分にとろみをつける、この2点を意識する必要があります。誤嚥しにくいとされるメニューの一例は次のとおりです。
- 肉料理:ひき肉を成形したハンバーグやクリーム煮などとろみがあるものなど
- 魚料理:硬くなりにくい魚(カレイ・ぶりなど)の煮付けやイワシのつみれなど
- 卵・大豆料理:玉子豆腐・スクランブルエッグや絹ごし豆腐など
- 野菜・芋料理:柔らかく煮た炊き合わせ・かぼちゃの煮物やポテトサラダなど
- 果物類:そのままでも柔らかいバナナなど
- 穀物類:全粥・フレンチトーストや柔らかく茹でて短く切ったあんかけうどんなど
上記に当てはまらない料理でも、ミキサーやフードプロセッサー、とろみ剤を使用してペースト状・ムース状にしたものも誤嚥しにくい食事に含まれます。
介護施設の誤嚥防止をサポートする「まごの手キッチン」
まごの手キッチンは、高齢者施設・介護施設向けに調理済みの冷凍食材を提供するサービスです。普通食の他に、歯茎だけでつぶせる柔らかさの「やわらか食(ソフト食)」や、噛む力・飲み込む力が低下した方向けの「ムース食」などに対応しています。
また、栄養の専門家である管理栄養士が栄養価を計算して献立を作成しているため、入所者の栄養管理をしたい施設にもおすすめです。和・洋・中合わせて800種類以上の多彩なメニューがあり、日替わりで入所者に提供できます。
さらに、誰が調理しても、出来上がりの状態に差が出ないため、安定した食事を提供できます。食べやすく調整されたお食事を安定して提供できるため、誤嚥のリスクを抑えられるでしょう。冷凍食材は解凍や湯煎するだけのため、調理業務の効率化につなげられます。さらに、調理による人手不足の解消やコストの削減といった効果も期待できます。
介護施設での誤嚥は適切に対応しよう
噛む力や飲み込む力が低下すると誤嚥しやすくなります。誤嚥が原因で死亡する高齢者は多いため、介護施設で食事を提供する際は対策を立てることが重要です。万が一、介護施設で誤嚥が発生した場合は、先述した対処法を参考にしながら正しい対応を行いましょう。
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【監修】
女子栄養大学
名誉教授 田中 明 先生
医学博士。
文部省学術国際局学術調査官、東京医科歯科大学医学部臨床教授、
日本健康栄養食品協会学術委員、女子栄養大学栄養クリニック所長
などを経て2021年4月より現職